車で何回か前を通ったことはあって、広々とした開放的な丘の上に、何棟かの建物があるので、どこか企業の研究所とその社宅か何かかと思っていました。

ある時、ちょっとしたご縁があり、フォトジャーナリストでノンフィクション/絵本作家の方で、動物介在活動を数多く取材され、ご自身でもその導入に関わっていらっしゃるOさんに講演をしていただく為、山口にお呼びすることになりました。（その時の講演は、子どもが犬に本の読み聞かせをする活動、『READプログラム』についてでしたが、それはまた別の機会にご紹介します。）

Oさんは、刑務所で受刑者の方が盲導犬パピーを育成するプログラムのアドバイザーをされていたり、刑務所内の読書会を推進されたりと、罪を犯してしまった人たちが動物や文学と触れ合うことによって、人の痛みを知り、責任感、共感力を養い、社会に復帰し再犯を防止する活動をサポートしていらっしゃいます。その関係で、せっかく山口まで来るのならば、美祢社会復帰促進センターにも行きたいとのご要望があり、興味があれば一緒に行きますか？とお誘いくださったことが、今のThe Moonlight Dog & Co.に関係してくるとは、その時は思いもしませんでした。

端的に言うと、The Moonlight Dog & Co.のパッケージラベルを貼る作業を、美祢社会復帰促進センターの受刑者の方にお願いしているのです。

刑務作業というと、たまに木工製品や民芸品のようなものの展示販売会がショッピングモールなどであったような？程度の認識しかなくて、これといった知識も、興味もありませんでした。漠然と抱いていたのは、更正プログラムの一環で、販売されている製品は、通常のものよりもかなりお値段は安い、くらいのイメージです。ところが、Oさんと伺った美祢社会復帰促進センターのセンター長さんのお話は、私にとってはとても衝撃的なものでした。

美祢のセンター長さんは、罪を犯してしまった人たちに必要なこととは何かを深く考えていらっしゃる方でした。つまり、罪を犯すに至った原因があり、それは多くの場合、不幸な家庭環境（貧困、親が覚醒剤中毒など）や不十分な教育によるもので、それを補うこと、きっかけを自分たちで見つけられるように支援することが、本当に必要なことなんだ、ということです。

だからこそ、刑務作業で手に職をつけ、そして働くことによる達成感や自己肯定感を知ることが、大切なのだと。刑務所内の読書会も（美祢社会復帰促進センターでは行われていません）、本を読むことで知る自分以外の人生、自分とは異なる考え方を通して、贖罪の気持ちを自分の言葉で表現できるようになるといいます。刑務所は、罰を受ける場所というよりは、人生をリセットして犯罪に戻らないようにするための場所でなければならない、と熱く語ってくださいました。

そして、服役を終えて社会に戻った時に、最も必要なものが、住む場所。

仕事はなんとなく見つけるのが大変そう、とは思っていました。でも、住む場所すら見つけにくい、という現実は、考えたこともありませんでした。住む場所がないと、住所不定ということで仕事も見つからない、仕事がなければお金がなくて、食べることもままならない。そして再犯に繋がってしまう、という負のスパイラルがあるというのです。

住む場所は、寮や社宅がある仕事に就くのががベストだけれども、なかなかそれも少なくなっているそうです。ところが、そこに浮上してきた業界、特に山の多い中国地方では重要な業界があります。

林業です。

人材の高齢化、そもそもの人材不足が恒常化している日本の林業。美祢社会復帰促進センターでは、私がOさんとお邪魔した時には、林業の作業を刑務作業、職業訓練の一つとして取り入れる準備を進めていらっしゃいました。刑務作業は、刑務所内の決まった部屋で、刑務官が監視する中で行われるのが通常です。私が見学させていただいた時もそうでした。林業となると、山に入らなければどうにもなりませんが、屋外の、しかも山での刑務作業が、今年度から実現しているとのことです。これはとても画期的なことで、このプログラムには、センター長さんはかなり力を入れていらしたようで、お話にも熱がこもっていました。

この林業と、ジビエは切っても切れない関係にあり、そこからThe Moonlight Dog & Co.のラベル貼り作業に繋がるのですが、長くなってしまったので、続きは後編で。